TRRRR‥‥

 その電話は突然掛かってきた。
 もっとも電話というモノは、突然掛かってくるモノと相場が決まっているのだが‥‥。
「ほいほいっと」
 この家の仮の主である男の子が受話器を取ろうとソファから立ち上がる。
 ダダダダッ‥‥‥RR、カチャ
「はい、もしもし‥‥はい、そうです。少々お待ちください。‥‥お兄ちゃん、電話。」
「お前、どこからわいて出たんだ?」
「唯はボウフラじゃないよ。鈴木さんて人から‥‥。」
「鈴木? ‥‥ああ!」
 嬉々として受話器を受け取る龍之介。
 唯はというと今まで龍之介が座っていたソファに腰を下ろし、テレビのスイッチを
入れる。もちろん耳は電話の会話を聞き逃すまいと、ダンボ状態だ。
「もしもし。あ、みの‥‥じゃなかったひろ子ちゃん?」
 どうやら鈴木みの○という女の子にも、ちょっかいを出したことがあるらしい。
「うんうん、日曜日ね。時間は?‥‥11時に如月駅、わかった、楽しみにしてるか
 ら。じゃあまた明日ね。」
 フンフン‥‥鼻歌混じりでリビングを出て、階段を上がって行く龍之介。そしてそ
れを見送る唯。
「鈴木 ひろ子‥‥か」
 口の中でそう呟くとソファを立ち上がり玄関へと向かう。
「お母さん、ちょっと友美ちゃんの所に行って来る。」
 母である美佐子の返事を待たずに唯は玄関の扉を開け放った。

 【こうして、新たなる戦いの幕が今、切って落とされた。】


『Lady Generation』

(Episode 2)

構想・打鍵:Zeke

 この作品はフィクションです。登場する人物、名称、土地、出来事等は実在するものではありません。
 また本作は(株)ELFの作品「同級生2」の作品世界を設定として使用しております。




「鈴木ひろ子? 誰それ。」

 八十八学園の南棟2階にある1年A組の教室、その隅の一角を陣取って3人の女の
子が額を寄せあって密談していた。
 一人は今発言した、見る角度によっては金髪の様に見えるウェーブがかったロング
ヘヤー【仕事はいいのか?】舞島 可憐。
 その隣に座るのは、意志の強そうな眉毛、男の子みたいなショートカット、言葉遣
いも男の子【でも身長は低いぞ】篠原 いずみ。
 そしてその真向かいに座るサラサラロング、トレードマークのヘアバンドと知的な
眼鏡、その物腰は100%お嬢様【内に秘めたる情熱は結構恐いぞ】水野 友美。
 以上3名。(以下3人娘と略す。)

「あ、私知ってる。セブンマートのバイトの娘だ。」
 対して考えた風もなくいずみが即答する。
 【さすがに部活が終わると買い食いに走るだけのことはあるな。】
「そう。今回はその娘が相手らしいわ。」 
「どんな娘なの?」
「えーと、私が聞いた話だと、4月からバイトを始めて、ウチの学校の男子生徒が数
 十名突撃したらしいけど全滅したみたいだな。」
「そ、そんな娘がわざわざ龍之介君の家にデートのお誘いの電話を掛けてきたの?」
「さすがは龍之介君ね。」
「友美、褒めてる場合じゃ無いぞ。」
「別に褒めている訳じゃないわよ。それはそうと約束をしたのが如月駅前に11時だ
 から私たちは10時にアタル前に集合ね。」
「えーっ! またやるのか?」
「当然よ。私との交際を発表する記者会見では『ずっと可憐ちゃんだけを見ていまし
 た』って言って貰うんだから。」
 またも可憐は両手を胸の前で組みウットリした目でいずみに抗議する。
「勝手に言ってろ、私は今回降りた。」
 席を立ち上がるいずみ。
「一人脱落‥‥っと。所詮いずみちゃんの龍之介君に対する愛ってこんなモノだった
 のね。」
 【それはこの間出演したドラマのセリフなのか? 高校1年生のセリフじゃないぞ。】
「誰が脱落なんだよ! わかったよ協力すればいいんだろ。」
「さすがはいずみちゃん。」
「‥‥それに篠原家の娘婿が稀代のナンパ師だったなんてのが広まるのは拙いしな。」
 【だから‥‥家を捨てる覚悟はどうした? しかも龍之介は婿養子決定か?】
「じゃ、決まりね。唯ちゃんには私から言っておくから。」
「あ、唯には気を付けた方がいいぞ。あいつはこの間、抜け駆けしようとした。」
「抜け駆け?」
「ああ。あの桜子って娘が立ち去ってから、龍之介を映画に誘っていた。直前で私が
 阻止したけど‥‥。」
「私がマネージャーに連れ去られた後?」
「そう。油断できないわね。わかった、唯ちゃんには私から良く言っておくから。」
 【人の事が言えるのか?】

 キーンコーンカーンコーン‥‥
 予鈴が鳴り響き三人娘は各々の席に戻っていく。しかし三人娘の誰一人として気づ
かなかった。彼女たちの密談が隣の席に座っていた少女に筒抜けだったことを‥‥
「水野友美、篠原いずみ、舞島可憐‥‥か」
 牛乳瓶の底のような眼鏡の位置を直しながらその少女が呟く。
 キラリと光ったのが眼鏡なのか彼女の目なのかはわからなかった。

            ☆            ☆

  そんなこんなで4日経ち‥‥今日は日曜、天気は快晴。開成町は隣町(地元ネタ)。
「ちょっと、早過ぎたかな?」
 駅の時計を見上げると、午前10時半、確かに約束の30分前は早いかもしれない。
「仕方がない、どこかで暇つぶしを‥‥。さて何処で時間を潰したモノだろうか?」
 思案に暮れる龍之介だが
「おはようございます。」
 背後から声を掛けられ振り返ると、約束した相手が立っていた。
「おはよう、みのりちゃん‥‥っと、ひろこちゃんの方がいいのかな? それにして
 も、ずいぶんと早いね。」
「みのりでいいです。だってすごく楽しみにしてたんです、今日のデート。
 でも、あの‥‥」
「どうしたの?」
「ごめんなさい。騙すようなことして‥‥」
「なに言ってるんだよ、外見がどうあれ、みのりちゃんはみのりちゃんだよ。」
 【相変わらずだな、龍之介。】
 だが当のみのりは大感激で、
「やっぱり龍之介さんは、思った通りの人です。」
 なんて言ってる。

            ☆            ☆

 一方こちらは3人娘。いつもの(と言っても2度目だが)喫茶店で作戦会議中のよ
うだ。
「基本的にはこの前と同じでいいと思うの。」
「でも、アレは唯ちゃんがいたお陰でしょう?」
「だから、私たちも会話を工夫しましょう。」
「工夫ねぇ。」
「そう。私だったら、一緒にお風呂に入った事とか、一緒の布団で寝た事とか。」
「水野さん! 龍之介君といつそんな関係になったの!?」
 喫茶店内に響きわたるような声で友美に詰め寄る可憐。
「お前が動揺してどーすんだよ。小さい頃の話に決まってるだろう。」

 【さすがいずみ。友美とのつき合いが長いだけのことはある。
  はて? 長いってどれくらいだ? ZekeのSSでは中学3年生までは、面識はな
  いようだが‥‥。
  まぁいいか。某氏のSSでは幼稚園以来のつき合いみたいだし、こっちの系列で
  はそれぐらいにしとこう。】
 (作者もいい加減だが、設定はもっといいかげんだ。)

「大体仕事はどうしたんだ? 国民的アイドルも結構暇なんだな。」
 【作者の思惑とは別に、しっかりと物語は進んでいるらしい。偉いぞ、いずみ。】
「あはは。ドタキャンしちゃった。」
「どたきゃん?」
「土壇場キャンセル。逃げて来ちゃった。だって龍之介君が心配なんだもん。」
「そこまでやるか‥‥」
「言ったでしょ、龍之介君の為なら芸能界に未練はないの。」
  【それは今日の仕事が料理番組の収録だからじゃないよね?(註:可憐ちゃんは料
  理が苦手だというのは、一部ではかなり有名らしい。)】
「それはいいけど、可憐ちゃんはどういう戦法でいくの?」
 友美が促す。
「私は一緒にお弁当を食べた事かなぁ。」
「可憐ちゃん! いつのことなの!?」
 【だから友美、君が動揺してどーする‥‥。】
「や、やあねぇ、例えばの話よ。例えば昼休みに屋上でゴザ(ゴザ?)敷いて、一つ
 のお弁当を2人で分け合うの。」
 【その弁当誰が作るんだ? 可憐ちゃんだったらちょっとだけ龍之介がかわいそう
  だぞ。あくまでも「ちょっとだけ」だけど‥‥。(註:可憐ちゃんの料理はかな
  り破壊力があるというのも一部では有名な話らしい。)】
「ふーん、妙にリアリティがあるけど‥‥。」
「そういういずみちゃんは?」
「私は‥‥じゃれあって胸を触られた事でも言ってやるか。」
「あら、それじゃあ、あまり意味がないわ。」
「なんでだよ。」
「だぁって、こんな胸じゃ‥‥」
 むにっ
「なな、なにすんだ」
「‥‥龍之介君が気の毒だわ。」
 額に手をやり、首を左右に振る可憐。
 もちろんいずみだって黙ってはいない、
「そう言う自分はどうなんだよ!」
 むにょっ
「うっ‥‥」
 絶句するいずみ、そりゃそうだろう。しかし羨ましいぞぉ!
「ふふん、どぉ? 胸っていうのは、こーゆーのを言うの。」
「ま、まだ成長期なんだよ! それに龍之介が胸の大きい娘が好みかどうかなんてわ
 からないじゃないか。」
 【まぁ、人それぞれだからね。】
「唯ちゃん遅いわねぇ。」
 あきれた顔で2人のじゃれあいを見ていた友美が呟く。が、2人は意に介さず、互
いの胸を触りあっている。
「デカけりゃいいってもんじゃないだろう。やっぱり形が良くなくちゃ。」
「そのために弓道部に入ったの? 無いのにやっても、しょーがないと思うの。」
 【ああ! それは禁句だ。Zekeはそれを言って、弓道をやっていた女の子にひっぱ
  たかれたことがある。(浅○さん、ごめんよー)でもさぁ‥‥】
「‥‥可憐、お前、いま、ゆってはならん事を〜」
 どうやら怒りゲージがマックスまで行ったらしい。ガバッと可憐を押し倒し‥‥

 カララン!
 店内に響きわたるカウベルの音。
「い、いずみちゃん、可憐ちゃん。‥‥2人ともそういう仲だったの。」
 店内に入ってきた唯が驚くのも無理はない。いずみは押し倒した可憐に覆い被さり、
右手で可憐の胸を鷲掴みにしていたからだ。
「ち、違うよ。ちょっとじゃれ合っていただけさ。なっ可憐。」
 慌てて可憐から離れるいずみ。
「そ、そうよ。唯ちゃん、龍之介君に変なこと吹き込まないでね。」 
「‥‥使える。」
「何か言ったか? 友美。」
「なんでもないわ。それより唯ちゃん遅いわよ。」
「遅いのはみんなだよ。お兄ちゃんもう女の子と接触してるよ。」
「なんだって」
 3人が同時に席を立つ。
「如月神社に向かうって事はわかってるけど、早くしないと見失っちゃうよ。」
「行きましょう。」
 友美の号令と共に喫茶店を出る4人。だが、彼女たちは気付いていなかった。自分
達の作戦が敵(敵?)に筒抜けであることに‥‥。

                  ☆

「ほら、あそこ」
 唯が指さす方へ3人の目が向く。なるほど、龍之介が女の子と楽しげに話している。
「間違いない、鈴木ひろ子だ。」
 いずみが確認する。
「ふーん、確かに可愛いわね。学園の男子生徒が突撃したというのも頷けるわ。」
「あ、歩き出したぞ。」
「どうするの?」
「取りあえず、尾行(つ)けましょう。」
 わらわらと何とも騒々しく追尾をはじめる4人。

 そんな4人の行動を建物の影から見つめる少女が1人。
「なるほど、そういうことだったのね。」
 少女は薄く笑うと、その4人の後を追うように歩き出した。

            ☆            ☆

 一方、龍之介とみのりは如月神社へと続く道を歩いていた。
「うわっ、結構込んでるな。」
「ええ、今日はお祭りらしいですから。」
 たしかに、普段では考えられないような混みようだ。こんなに混むのは、正月の三
ヶ日以来ではなかろうか。
「ふーん、知らなかった。じゃあ、お参りした後にちょっと遊んでいこうか?」
「はい!」
 にっこりと笑い、応えるみのり。
 第三者から見れば、微笑ましい恋人同士の様だ。
 もちろん第三者とは、この場合彼女たちのことを指す。
「な、なんかいい雰囲気ね。」
 今にも腕を組んで歩き出しそうな龍之介とみのりを見て、可憐は気が気ではない。
「とにかく一撃かけて様子を見てみよう。あの娘がどういう反応を起こすか見てみな
 いと‥‥。」
「そうね。お願い、いずみちゃん。」
 こうして、一の矢が放たれた。

                  ☆

「あ、龍之介、偶然だな。」
「あら、篠原さん。こんにちは。いつもお買い上げ、ありがとうございます。」
 龍之介が反応する前に、みのりがスマイル(0円)で応じる。
「私の名前、覚えてくれたんだ。」
「ええ、お得意さまですから。」
「どうせ、肉まんだろう?」
「龍之介、うるさいぞ。」
 【本当は構って欲しいくせに‥‥。】
「ところで、何やってんだ?」
「私が無理言ってデートして貰っているんです。」
 またも龍之介が反応する前に、みのりが応える。
「(デートって言うなぁ!)そ、そうか。良かったな龍之介。」
 心の叫びとは正反対の言葉を発するいずみ。
「そう言ういずみは何やってるんだ?」
「え? わたしは‥‥」
「篠原さんは、水野さんや舞島さんと一緒に遊びに来てるんですよね。」
「そ、そう。友美や可憐と‥‥」
 そこまで言っていずみは違和感を覚えた。
 何故、友美や可憐がこの場にいるのを知っているんだ?  いや、それ以前に‥‥。
「友美と可憐を知っているのか?」
「ええ、クラスメートですから。」
 いずみはもちろん、境内の脇にある茂みに隠れて、様子を伺っていた友美と可憐の
顔にも?マークが浮き出る。
「へ? だってウチのクラスには、鈴木ひろこなんて娘は‥‥。」
「ええ、いません。」
 みのりは応えながら、ポケットに手を入れ、牛乳瓶の底の様なレンズがはめられた
眼鏡を取り出す。
「でも、加藤みのりは聴いたことがあるでしょう?」
 いずみと隠れていた友美、可憐はクラスメートを出席番号順に思い浮かべる。5番
目にその名が出て来た。
 そしてその顔を思い浮かべる‥‥必要はなかった。
 目の前のひろこが髪を素早く三つ編みにし、その三つ編みをヤジロベエのように左
右に固定する。

 しばしの沈黙‥‥そして
「うそだぁ〜」
 3人の声が見事に重なり、美しいハーモニーを奏でる。
 【まぁ、わからんでも無いけどね。】

                  ☆

「と、友美、それに可憐ちゃんまで、何やってんだ? そんな所で。」
 驚いたのは龍之介だ。なにしろ境内の脇から、幼なじみはおろか、クラスメートと
は言え、国民的アイドルがわき出してきたのだ。
 3人娘にとって幸いだったのは、唯が釣られて立ち上がらなかった事だけだった。
「りゅ、龍之介くん、みのりさん。ぐ、偶然ね。」
 茂みの中からわき出してきて、偶然も何もないのだが、みのりはそれを追求するこ
となく、
「本当、偶然ですね。10時に喫茶店で待ち合わせるような事は聞こえたんですけど、
 まさかここで会えるなんて‥‥。」
 つまりこれは、「全部知っているよ」と言う警告だろう。
 3人娘は思わず顔を見合わせ、アイコンタクトで対策を講じた。‥‥その結果、
「わ、私たちお邪魔みたいね。ごゆっくりぃ〜」
 いぃぃ〜〜と、ドップラー効果を実践するように、3人一塊になって人混みの中へ
と消えて行く。
「何やってんだ? あいつら‥‥。」
「さあ。」
 表面は当惑したような顔をしているみのりだが、心の中ではVサインを出している
事だろう。
 【なかなかの役者だぞ、みのりちゃん。】
 そんな乙女心に、露ほども気付かず、
「まあ、いいや。それより、ここに高台があるんだけどちょっとした穴場なんだ。今
 の時期なら紅葉が綺麗だと思うんだけど、行ってみない?」
 もちろんみのりに異論があろう筈はない。
「はい。」
「オレの取って置きの場所なんだ、いつかみのりちゃんみたいな女の子と一緒に来た
 いと思ってたんだ。」
 【『なんぱし』の常套句だな。】
「嬉しいです。」

           ☆            ☆

 さて、一人取り残された唯は、「高台云々」を聞くと、すぐさま駆け出した。3人
娘があっけなく玉砕した今となっては、自分が止めるしかない。
  それには、ここで出て行くより、高台で待ち伏せた方が良いと判断したからだ。
 高台へと続く階段を、一気に駆け上がる。

「96、97、98‥‥99! やっぱり99段だよ。お兄ちゃんが間違ってたんだ。」
 以前、龍之介とここに来た時、同じように階段の段数を数えたのだが、龍之介は百
段あると言い張ったのだ。
 ちなみに赤い麦藁帽子は飛んでこなかった。
 かんわきゅーだい

 はー、はー、ぜいぜい
 さすがに一気に駆け上がると息が切れる。高台の小屋にあるベンチで呼吸を整えて
いると、5分もしないうちに階段の方から楽しげな会話が聞こえてきた。
「人の気も知らないで‥‥」
 唯は立ち上がり、階段へと向かう。

                  ☆

「長いですねこの階段。」
「そりゃそうだよ。なんたって百段もあるんだから。97、98、99、100。ほ
 らね。」
 自慢気に解説する龍之介。
「うそ! 99段しかないはずだよ。」
 そんな龍之介の目の前に唯が立ちはだかる。
「どわっ! ‥‥なんだ、唯じゃないか。お前までこんなところで何やってんだ?」
「ちょっとここで『かんしょー的』な気分になってたの。それよりお兄ちゃん、数え
 間違ってるよ。」
「お前が間違ってるんだよ。間違いなく百段あった。」
「99だよ。」
「100だ!」
「99!」
 お互い変なところで頑固だ。
「‥‥あの、それでは間を取って99.5段にしては‥‥」
 みのりが仲裁に入る。原作ならここで笑いが起こるのだが、そんな雰囲気ではなさ
そうだ。
 【それに、これ以上やると、単なるライン数稼ぎに思われてしまう。】

「ところで、こちらは龍之介さんの妹さんなんですか?」
「え? な、なんで?」
 いきなり核心を突かれ、どもる龍之介。
「今、お兄ちゃんと呼んでいましたから。」
「はじめまして。鳴沢 唯です。」
 すかさず妹という逃げ道を塞ぐ唯。
「あ、こちらこそ始めまして。加藤みのりで‥‥‥なるさわ?」
 【危うし! 龍之介。今日もまたひっぱたかれるのか?】
 だが、龍之介は動揺どころか、その顔に笑みすら浮かべている。
 【覚悟を決めたのか?】
「あの、立ち入った事をお聞きするようですが、どうして名字が違うんですか?」
 相変わらず言葉遣いは丁寧だが、その口調は言い逃れを許さないものになっていた。
 緊迫した空気が3人を包む。
 そして永遠とも思える無言の数秒の後、龍之介が口を開いた。

「従妹なんだ。」
「あ、従妹さんですか。」
 納得したように頷くみのり。
 対照的なのは唯で、思わぬ返し技を喰らって、一瞬思考が停止したようだ。
「じゃな、唯。」
 そのスキを突いて、龍之介は唯から逃げ出す。
 そそくさとその場を離れようとする龍之介の行動を見て、唯は我に返った。
(ここで自分が挫折したら、大好きなお兄ちゃんを目の前にいる女の子に取られてし
 まう。)
 そんな想いが、唯に捨て身の行動を取らせた。

「でも、お兄ちゃんは唯にキスしてくれたんだよね。」
 【あの、唯ちゃん? その話は系列が違うんだけど‥‥。】
(『恋しさと せつなさと 心強さと』10years #3参照)
「だからあれは‥‥」
 振り返った龍之介が反駁しようとする。
 【ああ、私の純愛路線SSが‥‥】
「あれは‥‥なに?」
「忘れろって‥‥。」
「唯は忘れないよ。あれは唯の一生の思い出だもん。忘れる事なんて‥‥」
「唯‥‥」
 【完全に二人の世界に入ってしまってるな。そうだ、このまま純愛路線に移行して
  しまおう。】
「それに、仮に唯とお兄ちゃんが従妹同士でも、しようと思えば結婚だって出来るん
 だからね。」
「けっ結婚って‥‥唯、お前‥‥」
「お兄ちゃん、唯はお兄ちゃんのこと‥‥」
「唯、それ以上は言うな。」
「どうして、どうしていけないの? もう唯は一番言いたい事が言えないなんて嫌だ
 よ。」
 【こ、これだ。これこそZekeが望んでいた展開なんだ。よし、これで一気に‥‥】

「いや、そうじゃなくてだな、それ以上言うと‥‥」
 何故か龍之介の視線は、唯を飛び越えて、その後ろに注がれていた。
 そして唯も気付いた。
 刺すような視線が自分に向けられていることに。しかも6つ‥‥
 【ついでに書くと、Zekeもあきらめた。シリアス路線に変更するのを‥‥なぜなら
  ‥‥お約束だから。】

                  ☆

「唯ちゃん‥‥」
 右側から可憐が現れ、唯の右腕をがっしりと捕む。
「今の話‥‥」
 左から現れたいずみが左腕を
「どう言うことなのか説明してくれないかしら?」
 最後に友美が背後霊の如く唯の肩に首を乗せ、耳元で囁く。
  サーッ <血の気の引く音 from 唯
「あ、あはは‥‥。ゆ、唯、何のことか忘れちゃった。」
 とぼける唯。
 が、そんな事でこの場が丸く収まる訳がなかった。
「そう、忘れたなら仕方がないわね。」
 思わず「ホッ」と息を吐く唯。が‥‥
「慌てずゆっくりと思い出して貰いましょう。」
 言うが早いか、3人掛かりで唯をズルズルと引きずり出す。

 もちろんそんな絶好の機会を逃す龍之介ではなかった。みのりの手を引き、その場
から離れようとする。
「あ、ほら、お兄ちゃんが逃げちゃうよ。」
 訴える唯だが、3人は聞く耳持たない。
「いいの。あの娘より唯ちゃんの方が何倍も危険だから。」
「そうそう。」
「今は龍之介くんを心配するより、自分の身を心配をした方がいいわよ。」
 捨て身の戦法はその字の如く捨て身となったが、効力は皆無だった。
 【哀れ、唯ちゃん。】

            ☆            ☆

 こうして、龍之介とみのりの間には何の障害も無くなった、様にみえた‥‥が、
「なんか、せっかくのデートなのにドタバタしちゃったね。」
「‥‥。」
 気まずい雰囲気である。ま、当然と言えば当然だけど‥‥。
「この奥にも小さい社(やしろ)があるんだけど、行ってみない。」

「‥‥あの、さっきの娘‥‥。」
 言い淀むみのり。
「ああ、唯のこと? 小さい頃から親の都合で一緒に暮らしてたからさ、昔ふざけて
 て、キスしちゃったことがあるんだよ。」
「昔って、何歳くらいの時ですか?」
 的確なツッコミを入れるみのり。
「え、えーと‥‥7、8歳かな?」
 【大嘘つき! アレは中学一年の時の話だ。が、もちろんみのりにそんな事は解ら
  ない。】
「それぐらいなら、ふざけててあるかも知れませんね。‥‥でもあの娘は、そうは思っ
 て無いみたい。」
「や、やだなぁ、あいつは妹みたいなもんだよ。恋愛対象なんかには‥‥」
 【極悪‥‥】
「信じていいんですね。」
 潤んだ目で龍之介を見つめるみのり。
「う、うん。」
 【超極悪‥‥】
「じゃあ、信じます。」
 【そんなにあっさり信じちゃっていいのか?】
「ありがとう。じゃ、行こうか。」
 作者の思惑は全く無視され、再び龍之介とみのりは再び歩き出した。


 秋も深まり、高台の木々の葉も本来の役割を終え、自己を主張するかのように色付
き始めている。
 二人の外にも奥の社(やしろ)に参拝する人間がいるのか、反対側から歩いて来た
数人の参拝者とすれ違う。

「あっ‥‥」
 突然その中の一人が、みのりにヨロヨロと倒れ込んで来た。
 慌ててみのりが支る。
「だ、大丈夫ですか?」
「す‥すみません‥‥大丈夫‥‥です。」
 大丈夫と言っている割には、顔を上げた少女の顔色は良いとは言えない。
 もっとも、その少女の顔を見た龍之介の顔色ほどではなかったが‥‥。
「救急車を呼びましょうか?」
 龍之介の変化に気付かず、倒れ込んできた少女にみのりは語りかける。
「いいんです。‥‥きっと罰が当たったんだわ。」
「は?」
「私、信じて上げられなかったんです。あの人のことを‥‥。可愛い娘がたくさん彼
 に話しかけるから‥‥彼にも言い分は有った筈なのに。」
 【龍之介はその場を全力疾走で離れたかったに違いない。】
「今日はその事を神様に許して貰おうと思って、お参りに来たんです。でも‥‥例え
 神様が許しても‥‥。」
 その少女はゆっくりと顔を上げ、龍之介の方へ顔を向ける。
「龍之介くんは許してくれるかしら? ‥‥桜子のことを。」
 このとき桜子を中心に、半径3メートルの気温が10度ほど落ち込んだ。が、その
変化が、気象衛星『ひまわり』に探知されたかどうかは定かではない。

 今度はみのりがゆっっっくりと龍之介の方へ顔を向ける。
「龍之介さん。」
 にっこりと微笑むが、明らかに目が笑っていない。
「は、はい?」
 桜子を龍之介に預け、続ける。
「私、用事を思い出しました。今日は失礼します。」
 そう言うと、龍之介の返事を待たずに、もと来た道を歩き出した。
「あ、あの、みのり‥‥さん?」
「なんですか?」
 振り返ったみのりは、凍てつく波動を発散させていた。
「あの、気を付けて帰ってね。」
 完全に迫力負けしている。
「ありがとうございます。」
 応えるみのりの言葉には、とてもありがたがってるような雰囲気はない。
 見えないオーラを発散させているためか、モーゼの十戒のようにみのりの進行方向

にある落ち葉が割れて道を作っていた。

                  ☆

「龍之介くん?」
 龍之介が視線を落とすと、桜子が腕に巻き付き、見上げている。
「私の事、許してくれる?」
「許すもなにも‥‥ちゃんと説明しなかったオレが悪かったんだから‥‥」
 【すごい切り替えの早さだ。】
「じゃあ‥‥」
「ゴメンね、桜子ちゃん。」
「そんな‥‥あの、痛くなかった?」
「殴られたことより、桜子ちゃんに誤解された事の方が、心に痛かったよ。」
 【その後、友美と買い物に行かなかったか?】
「ごめんなさい。」
「じゃ、今日はつきあって貰おうかな。」
「え?」
「海を見に行こう。」
「うん!」

 こうして、龍之介は無事に桜子とデート出来ましたとさ‥‥メデタシメデタシ


   で、唯と3人娘がどうなったかと言うと‥‥

「じゃーんけーん、ポン。あいこで、しょっ!」
 喫茶店に入るなり、じゃんけんを始める3人。
「ね、ねえ。何のジャンケンしてるの?」
 恐る恐る、尋ねる唯。
「決まってるだろ。誰が最初に龍之介と間接キスするか決めてるんだよ。」
「か、間接キスって?」
「唯ちゃんが龍之介君にキスしたんなら‥‥」
「唯がしたんじゃなくて、お兄ちゃんが唯にキスしたんだよ。」
 3人の手が止まる。
「何か言った?」
 凄まじい迫力で唯を睨み付ける3人。
「なんでもないです‥‥」
「いい? キスしたのなら‥‥唯ちゃんにキスすれば間接キスじゃない。」
 【そういう問題か?】 
「ゆ、唯、ちょっと女の子とキスするのは‥‥」
「文句言うなよ。私達だって間接で我慢しようと言ってるんだから。」
「まあ、これも抜け駆けした罰だと思って。」
 【君らはそれでいーのか?】

「やたっ、一番!」
「私が2番ね。」
「なんだ、私が最後か。まあいいや。可憐さっさと済ませろよ。」
「せかさないでよ。ムードってもんがあるんだから‥‥。」

 唯の顎に可憐の手が掛かる。
「さあ唯ちゃん、目を閉じて‥‥」
「やだ〜〜〜〜」

 以下危ない世界へ‥‥つづけられない(;_;

                         『Lady Generation2』 了


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