An Episode in The Known Worlds' Saga ---《 The Soldier 》 外伝


光の真名
ひかりのまな

第5章 『一瞬の風景』

… A-Part …



 次元暦 895.103。TERA-001。アミア・フロイラインは、遂にソルジャーを見つけ出し、戦いを《光》の勝利へと導いた。《闇》の者たちは、いずこかへ姿を消し、街には久方ぶりに平和が戻った。弱冠17歳の少女が成し遂げた快挙。今や彼女はヒロインである。ノウン・ワールドでは連日マスコミが彼女を賞賛する記事を流し、特集を組み、大衆の興味と興奮を掻き立てていた。インタビューの申し込みが殺到し、手記の執筆依頼が山のように舞い込み、講演、座談会への出席依頼ともなると50年どころか、100年かかってもこなせっこない程の数に昇っていた。誰もが彼女の姿を見たいと願い、その帰還を心待ちにしていた。最初の1週間は興奮のままにすぎた。次の1週間はいつどこで彼女が最初の声明を発表するのかに注目が集まった。さらに次の1週間はなぜ彼女がこのような成果を上げるに至ったか、様々な推測が語られた。そしてなお1週間が過ぎると人々は焦れはじめた。なぜアミアは姿を現さないのか? 政府は何をしているのか? 満たされない好奇心は苛立ちから怒りに変わり、中央評議会をなじる声が上がりはじめた。とうに戦いは終わったというのに、なぜ政府は彼女を大衆の前に出さないのだ? 一体、彼女をどこに閉じ込めているのだ? 世界を救ったヒロインを政府が独占するとは何事だ! 窓口となった担当者は、懸命に事情を説明した。戦いが終わったからと言って、任務が終了したわけではない。残務もあるが、いかにも苦しい説明だった。大部隊を送り込んだわけではない。かの地にいるのは、アミアただ一人なのである。残務も何もあったものではない。それが言い訳に過ぎないのは、誰の目にも明らかだった。そして、実際のところ、それは言い訳であり、担当者自身も困り果てていた。なぜなら、彼女、アミア・フロイラインは、まだ「ここ」にいたからである。

「平和ねぇ……」

 制服姿のアミアは、公園のベンチに腰掛け、1本だけ生き残った桜が見事な花を咲かせているのに見とれていた。学校帰り、友人と別れた後、ふと気になって寄ってみたのである。

 長らく休校が続いていた高校も、しばらく前から授業が再開されていた。元々は正体をカモフラージュするのが目的で通いはじめたのだから、今となっては別段、律義に通学する必要もないのであるが、1年も通い、友人もできたとなれば、愛着も湧くものである。そして、何をするかといえば、友人との久しぶりの再会に手を取り合って喜び、互いの無事を祝い、怪我をした友人を足繁く見舞い、戦いで亡くなった友に涙を流し、家族を失ったものを元気付け、その合間にお喋りをする。つまるところ、ノウン・ワールド、オフィシャルリサーチャーのアミア・フロイラインではなく、TERA-001の一介の女子高生、華野 歩としての生活にどっぷりと浸り込んでいたのである。
 もちろん、今回の件に関する報告書は既に提出してある。ありったけの演技力を総動員して、懇願したり、脅したり、甘えたり、すかしたり、そして、ほんのちょっぴり涙を効果的に使ったりして受理させた休暇申請書と一緒に。そう。彼女は休暇中なのである。それも中央評議会議長の計らいで、3ヶ月という長期の。議長秘書は、孫だからといって、甘やかしすぎると苦い顔をしたらしいが、世界を救った英雄の願いにしては、ささやかなものではないかと取り合わなかったらしい。何度目かの定時連絡でそれを聞いたアミアは、とんで帰って、大好きなおじいちゃんにとびついてあげたかったが、そんなことをしたら二度とこの世界での休暇など叶うはずもないことも知っていたので、感謝のメールを送るに止めた。で、それ以来、ますますもって、この貴重な休暇を大いに満喫していたのであった。が。

「鷹神君、どうしてるかな……」

 桜を見上げたまま、ぽつりと呟く。ふいに風が吹き、アミアの髪をなぶる。以前なら胸を躍らせながら、ああでもないこうでもないと彼のことを考えたのだが、最近は、何かこう、胸の奥が締め付けられるような感じがするばかりで、余り楽しいとはいえなくなっていた。

「馬鹿みたい」

 俯き加減に目を潤ませ、小さくため息を吐く。最初からわかってたことなのに。私はいずれここを去らねばならない人間。そしてここは、正式なコンタクトどころか、調査隊すら送ることが難しい辺境の世界。このまま蒸発でもしない限り、居残ることもできない。

(蒸発?………………)

 一瞬だけ、それは非常に魅力的なアイデアだったのだが、すぐに無数の現実が押し寄せてきて、細い肩ががっくりと落ちた。

 ガサガサ………バシッ!

(ふぅ……最近、こんなことを考えてばっかり)

 宇宙を救った無敵のヒロインにだって、どうにもならない現実というものはある。問答無用と謳われた美少女にだって、どうにもしようのない想いというものがある。つまるところ、アミアも普通の少女と同じ悩みを目下抱えているところであった。

 バギッ!

(どうしてこの世界の人に……え? 何?)

 バキバキバキバキ!

「どわわわわぁぁぁ!!!」
「きゃぁあっ!!」

 慌てて身を翻してフェイザーを構えたアミアは…………そこに、世にも間抜けな男の姿を見た。

「はぁ?」

 ベンチの後ろに生えていた木の枝に体を抱きかかえられるようにしてひっかかってもがく少年がいる。何やら悪態をついて、必死に抜け出そうとしているが、なかなか思うようにいかないらしい。もがけばもがくほど手が枝にからみ、足が枝から抜けず、醜態をさらしている。それは、アミアにとって、十分に滑稽な光景であった。

「ぷっ」

 フェイザーをしまうことも忘れて、アミアは笑い出す。最初は慎ましくクスクスと笑い声を忍ばせる程度だったが、すぐに指をさしてケタケタと派手に笑い出す程になり、しまいには、お腹を抱えて大笑いするに至った。自分の目の前で女の子にそんな派手な笑い方をされて、何も気がつかない男などいない。

「あのね。笑ってる暇があるんだったら、ちょっと手を貸してくれない?」
「あはははははは!」
「おい、聞いてる?」
「きゃははははは!」
「あのな!」
「なはははははは!」
「女の子が『なはは』はないだろう。ったく」

 アミアは聞く耳を持たない。彼は少し憮然とした表情で、少女の発作が収まるのを待つしかなかった。

「あはは……ご、ごめんなさぁい。くくく……」
「それだけ笑えば充分だろ。ちょっと手を貸してくれよ」
「ちょ、ちょっと待ってね……うくくくく……」

 笑いすぎて零れた涙を拭うと、フェイザーを懐にしまい、アミアは彼に近づいた。

「人が困ってるって言うのに、全くひでえ女だな」
「だって、あなたが……だめ……うふふ……くくくく」
「何が面白いんだか。ちょっと、そっちの枝を持っててくれよ」
「ご、ごめん……ぷっ……くくくく」

 素直に、少年の体に絡まった枝を1本手にとるが、笑いを押さえることはできない。結局、彼が木の枝を振り払って地面に立つまで、アミアは笑いっぱなしだった。

「ああ、ひどい目にあった」
「そ、そうね……うぷ……くくく」
「まだ笑ってやがる。人のことをそうやって笑い者にしてると、折角の美人の値打ちが下がるぜ」
「美人ねえ……うっくくく……あははははは」
「なんだよ。まだ笑い足りないのか?」
「だって、その格好で言われても」

 頭には木の葉がまとわりつき、ブレザーは肩からずり落ち、肩口が綻びて開いており、シャツはズボンからはみ出し、そのズボンはかぎ裂きができてボロボロだった。

「げげ! 1着しかない制服が!」
「ちょっと貸してごらんなさい」

 まだしつこく笑い続けながらもアミアはその少年からブレザーを奪い取り、ベンチに腰掛け直して、鞄からソーイングセットを取り出した。

「な、なにすんだよ」
「ズボンはどうしようもないけど、ブレザーの綻びくらいは何とかしてあげるわ」
「え?」

 くすくす笑いながらも手際良く針を運ぶ。

「へ、へえ。上手いもんだな」
「ま、ね」

 笑いの余韻を顔に残しながら、アミアはすいすいとブレザーの綻びを縫いあわせていく。少年は手持ちぶさたにその様子を眺めていた。

「ねえ、あんなところで何してたの?」
「べ、別に」
「そうねえ。女の子を口説いてたようには見えないし」
「おい、どこの世界に木登りして女の子をナンパする男がいるんだよ」
「何事にも一番乗りっていうのはいるじゃない。でも、見たところ相手になりそうな女の子もいないし」
「当たり前だろ」
「じゃ、何してたの?」
「ど、どうでもいいだろ」
「ふ〜ん。人には言えないことなんだ」
「あのなぁ!」
「うふふ。むきになっちゃって。可愛い」
「!!!」

 彼は顔を真っ赤にして絶句してしまった。そんな彼をふふっと鼻で笑いながら、アミアは縫い物を仕上げ、出来栄えを確かめた。

「ん。大丈夫なようね」
「………すまないな」
「うふふ。笑い者にしちゃったお詫びよ」
「ふん。お詫びって言うんなら……」
「おう、待たせてすまん」

 ふいにベンチの傍から馴染みの深い声がした。アミアの背中がひきっとこわばり、慌てて顔を俯かせる。

「おせえよ。何時間待たせる気だ」
「とかなんとか言って、しっかり女の子と仲良くなってるじゃないか」

 ブレザーを持つアミアの手に力が入る。心なしか震えてもいるようだ。

「そんなんじゃねえよ。おい、ブレザーありがとうよ」
「おいおい。せっかく仲良くなってくれた女の子にそんな言い方はないだろう」
「いいんだよ。俺を散々笑い者にしてくれたんだから」
「何言ってんだ。大事そうにお前のブレザーを持って……あれ?」

 恐る恐る、アミアは顔を上げた。

「こ、こんにちは……鷹神……君……」
「華野じゃないか。おい立木、お前、相手が誰だかわかって声をかけたのか?」
「だから、別に声をかけたわけじゃないって」
「じゃ、なんで華野がお前のブレザーを握り締めてるんだよ」

 ご、誤解された!

「ち、違うの!」
「違うって!」

 少年とアミアは、同時に答えた。はっとして顔を合わせる二人。アミアの頬は桜色に染まっている。

「あのな、立木。お前も聞いたことがあると思うけど、水無月高校の華野 歩って言えば俺やお前が相手にできるような子じゃないんだぞ」
「そ、そんなことないけど! でも違うの! いえ、そうじゃなくて!……」

 一体、なぜそんな風に思われてるのかアミアにはとんと心当たりがなかったが、取りあえずこの場の誤解を解かなくてはならないという焦りから事態の説明を試みる。が、あれこれ想いを巡らせていた相手が突然現れたのと、この立木という少年が先程までのことをネタに茶々を入れないかという恐れですっかり混乱してしまい、口をついて出てくるのは支離滅裂な言葉ばかり。自分でも何を言ってるのかよくわからない始末で、勢い、今にも消え入りそうな声となり、迫力のないこと夥しい。それでも何とか、何があったかを鷹神に理解させるに至ることができたのは、立木が適切なフォローを入れてくれたからだった。

「だから……あの……そういうことなの……」
「なるほどねぇ。まあ、華野が立木なんかとデートしてるなんて、おかしいとは思ったんだ」
「そりゃ、どういう意味だよ」
「何、気にすることはないよ。どうせ、桜の木を眺めるつもりで木に上ったら、気持ちがいいんで、寝ちまったってのが関の山だし」
「くっ………」
「それに、華野にひとときの娯楽を提供できたんだから、こいつも喜んでるよ」
「俺はコメディアンか」
「うるさい。いいよな、お前は。華野にブレザーの繕いまでしてもらってさ。俺もそういうシチュエーションに出会いたかったよ」
「え?」
「は?」
「い、いや、何でもない。ははは……」

 照れ笑いをする鷹神を見て、先程の言葉がどういう意味かを推察できないアミアではない。体が震え出すのではないかというほど心臓をどきどきさせて、俯いてしまった。もちろん、顔は薔薇色を通り越して、完熟トマトのように真っ赤である。鷹神も照れ笑いだけでは、空々しさを助長するだけだと思ったのか、急に言葉をつなぐ。

「そ、そうそう。紹介がまだだったね。こいつは立木 竜。橘学園の3年。中学からの腐れ縁でさ。ま、女に手が早いのを除けば悪い奴じゃないんだ」
「おい、それじゃあまるで、俺が見境なく女の子をナンパしてるようじゃないか」
「そうじゃないか。せっかくあれだけ慕ってくれる可愛い彼女がいるっていうのに、こないだも駅前で女の子に声をかけてただろ」
「う……」
「全く。やっとあの戦争だかなんだか訳のわからん騒ぎが収まったと思えば、早速ナンパに走るんだからな。いい根性してるよ」
「ほっとけ」
「あ、華野のことは紹介するまでもないよな。お前のことだから当然知ってるだろ」
「ま、まあ、噂くらいはな」
「嘘つけ。まあ、華野も、道であったら挨拶くらいしてやってくれよ」
「よ、よろしくね。立木……君」

 先ほどとは打って変わってしおらしくなってしまったアミアの様子に、内心嘆息しながらも、一応愛想を見せておこうとした立木は、アミアの手の中を見て、ひきっと顔を引きつらせた。

「どうした?」
「お、お、俺のブレザーがぁ!」

 見ると、説明の間中、アミアが手をもじもじさせていたためか、すっかり皺くちゃになっており、おまけにせっかく縫いあわせたところがまた盛大に綻んで、無残な姿に変わり果てていた。

「ご、ご、ご、ごめんなさい!」
「男が細かいことを気にするなよ」
「しないでかぁ!」

 ………とにもかくにも、こうしてアミアは一人の少年と出会った。後にそれがどういう意味を持つことになるのか、この時点でそれを理解できる者は、あいにくとこの場に立ち会っていなかった。



 コズエはまだ呆然としていたが、伊達に軍事訓練を受けていないミサの方は、次の瞬間には立ち直り、今の淳の言葉を吟味しはじめた。

(彼がソルジャー? 確かに能力からすれば、一概に否定するわけにはいかないけど)

 そこで彼女はセンサーの反応を確認する。

(センサーが反応しないのも事実だわ)

 いやしくも軍人なら、自分の主観や直感より、信頼のおける計器の反応の方を信用すべきだ。だが……一方で彼女は考える。私の「直感」は、彼の言葉に嘘を感じ取っていない。相矛盾するデータが存在する場合は? 残念なことに彼女は尋問や交渉に長けていたわけではないので、名案など浮かばなかった。

(では、相手に事実をぶつけて馬脚を現すかどうか見るしかないわね)

「あなたが、ソルジャー!? まさか!」
「なぜ?」
「考えられないわ。言っとくけど、私たちにはソルジャーを探知するための専用のセンサーだってあるんですからね。かつごうったってそうはいかないわよ」
「専用のセンサー?」
「そうよ。『カタストロフ』の後、アミア・フロイラインが持ち帰ったソルジャーのアストラルパターンを解析して作られた専用のセンサー」
「アミアが?」

 淳が振り返ると、桜子は素知らぬ顔をして、明後日の方を向いている。可憐はと言えば、高みの見物を決め込んだようで、にこにこ笑いながら、黙って二人の様子を伺っている。

「桜子ちゃん」
「…………」
「アミア」
「…………」
「アミア・フロイライン」
「なぁに?」

 私は何も知らないわよと全力で訴える桜子の笑顔が、淳の視線の先に生まれる。つかの間、呆気に取られてその笑顔を淳は見ていたが、やおらにやりと笑うと、ミサに向き直った。

「いや、アミアも中々大したもんだよ。俺に気づかれずにそんなデータを取っていたとはね」
「さあ。本人から『了解』を得て採取したのかも知れないわよ」
「やれやれ。でもね」
「でも?」
「だとしても、そのデータは当てにならないよ」
「ちょっと……それ、どういう意味?」

 桜子が、思わず憮然とした口調で話に割り込む。言ってからしまったと口を押さえるが、もう遅い。淳が苦笑しながら桜子を振り返った。

「相変わらず隠し事のできない性分だな」
「さ、さあ、何のことかしら?」
「今さらとぼけてももう遅いよ。大体、取るなら取るで、事前に言ってくれればよかったのに」
「…………」
「あのね、俺からアストラルパターンを取るのは不可能なんだよ」
「え?」

 桜子の目からとぼけた表情が消える。

「どういうこと?」
「俺には、君たちのように固定したパターンなんてないんだよ」
「……まさか」
「そのまさか。何だったら、ここでもう一度取ってみるかい?」

 訝しげな表情で淳を見つめつつ、桜子はミサに近寄っていった。

「スキャナーを貸してもらえますか?」
「え、い、いいけど」

 ミサの腕から外されたスキャナーを受け取る桜子の腕がふと止まる。

「なに?」
「2000年もあれば、どんなものでも元のままっていう訳にはいかないわよね」
「どういうこと?」
「私が扱いを知ってるのは、タミヤ=ウィンスロウ・ファミリーの89式なの。これは私の知らないモデルだわ」
「タミヤ=ウィンスロウ・ファミリーって、1600年前に『新世界動乱』に巻き込まれて崩壊した、あの技術開発ファミリーの?」
「そう……そんなことがあったの?」

 ミサは目眩がしそうだった。子供でも知ってる有名な話だ。なのにこの子は、タミヤ=ウィンスロウ・ファミリーを知ってるくせに『新世界動乱』のことは聞いたこともないように言う。

「あなた……本当に、本物のアミア・フロイライン?」
「本物かどうか……自分ではそう思ってるけど……」

 そう言った後、桜子はミサに微笑みかけた。

「あなたがスキャンしてくれないかしら?」
「え?」
「『ソルジャー』のアストラル・パターンよ」
「あ、ああ。『彼』ね」

 慌ててスキャナーを淳に向け、解析が始まるのを待つ。待って。彼女が現れたとき、確かに『力』を使っているように見えたわ。でも、ただの人間にそんな『力』なんかない。あるはずがない。じゃ、この子一体……?

「あら?」

 スキャナーが何の反応も返さない。ミサは手の届く距離まで淳に近寄ってみたが、結果は同じ事であった。

「壊れたのかしら?」

 念のためにそばに立っていた桜子に向けてみる。スキャナーは一瞬の間を置いた後、いかにも問題なさげに解析が終了したことを表示した。解析結果をゴーグルに表示させてみるが、特にこれといって故障を示すような点は見られない。だが、淳に向けてみると、やはりスキャナーは何もしないのである。

「ど、どういうこと?」
「どうしたの?」
「スキャナーが反応しない……」

 驚いた桜子とミサが淳を見る。

「言った通りだろ?」

 その構造や特性は、属する次元や生物種によって異なるものの、理論的には、アストラル・パターンを持たない生物など存在しないはずであった。たとえそれが《光》や《闇》の者だったとしても、だ。当然、ミサの脳裏には疑いが生じる。

「採取されないように何かしたんじゃないの?」
「何のために?」
「そ、それは……な、何か正体だとか所在がばれたら困ることがあるんでしょ」
「で、そのために『ソルジャー』だと名乗ってわざわざ注意を引き付けるのかい?」
「う…………」

 ミサが口ごもる。

「ま、と言っても」

 肩をすくめてから、淳は言葉をつないだ。

「事態に変わりはないんだろうけどね」
「そ、そうよ。精神体工学上の謎は見せてもらったけど、あなたが『ソルジャー』だということが証明されたわけじゃないわ」

 顔を引き攣らせながらミサが重ねて問い詰める。

「それでも『ソルジャー』だと言い張るなら、何か証拠でも見せてくれる?」
「証拠……ねぇ」

 淳は、余計なことを言わなければよかったと後悔した。





《 B-Part へ続く 》

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